小さい本です。15cmの四角形。で、2,160円(税込)。高いなあ。私は図書館で借りただけなのでいいのですが、いったい誰が買うのでしょう? 階段マニア?
まず、あとがきから読んでみます。と、この本が生まれた経緯が描かれています。大学の建築学科に入学しながら、階段の設計が苦手なために、4年間「平屋建て」でやり過ごした人へ、改めて階段を理解してもらうことを念頭に作られたそうです。4年間逃げ切るとは凄いですね。逃げ切ったその人とは、この本の編集者さん、だということです。
建築を学ぶ学生さんへの解説書としても使える内容で、基本、私のような素人向けの本ではなさそうですが…とても面白い本でした。
私がこの本を借りてみたのは、「階段は1坪で納める」というやり方を「家づくりの基礎知識」という本で読んでいたからです。建築家、伊礼智さんの納め方です。階段は無駄に主張させず、シンプルに、という考え方が印象に残りました。
階段は平屋建てでない限り、どんな建築物にもついています。大きくて立派な建物には、それにふさわしい、堂々とした、美しいデザインの階段がついています。でも、今私が欲しているのはゴージャスな階段ではなくて、狭小住宅に作るちっぽけな階段です。
この本は、すべての建築の、ありとあらゆる形の階段を解説しているわけではなくて、住宅の階段に限って解説しています。そして前書きには、
階段は単なる上り下りをするだけの装置ではなく、豊かな空間でなければなりません。
と述べられています。私が知りたい階段が、ここにあるかもしれません。果たして、この本の中で、階段は1坪に納まっているのでしょうか?
章ごとに分けてみます。
階段は、家の空間の演出に重要な役割を果たす、ということが述べられます。
本の全編を通して、手書き(風)の図面が示されますが、上手いのはまあ当然?として、素朴な味わいがあって、見ていて落ち着きます。手書きの線のブレ具合がこんなに気持ちのいいものだとは思いませんでした。もちろん、解説として重要な役割も果たしています。
あまり意識して見たことのない階段ですが、ひとつの建築物に階段をつけるのに、いろんなパターンがあって、何がいちばんふさわしいか、深く考えられていることがわかります。
私のような素人が見て意識が向かない階段というものは、逆に、自然と納まりのいいデザインと言えるのかもしれません。
直進階段とか、らせん階段とか、そういう階段の種類の解説です。ここでも、その建築物に合う階段の種類とは何なのか、考察されます。
階段各部の名称や、階段を作る上での勾配や寸法などの決まりごと、図面の書き方など、階段を設計する上で基礎となる知識が解説されます。階段の下の空間を、どう活用するかについても。
学生さんが、授業でよく間違えるパターンだそうなのですが、どこが間違っているのかをクイズ形式で出題してくれます。なるほど、そう言われれば、この階段は上にあがれないなあ、と普段目にしている階段の思わぬ決まりごとに気付きます。階段は梁で囲まれた中に納めなければダメなことも、初めて知りました。
ここはまさしく建築科の学生さん向きで、階段の図面の描き方の解説です。これを見ながらがんばれば、私でも階段が描けるようになるかもしれません。
階段は、住み手のスタイルによって設置する場所が変わります。この章では、階段のカタチが住み手の思いをどう表すのか、どう生活スタイルを決定づけるのか、いくつかのパターンを示します。こうして見ると著者は、階段と吹き抜けを組み合わせた「ダイナミック」が好みのようです。確かに開放感ありますけどね。
どんな形の土地に建つ住宅でも、階段の形はそう変わりません。家が小さいからといって、階段も極端に小さくするわけにはいかないのです。
ここでは狭小住宅や、変形した土地に建つ住宅に合った階段とは何か、その例が示されます。三角形の建物の頂点に階段を持ってくる納め方は、すごく面白いです。
階段にミニ書斎を組み込んでみたり、木材をそのまま階段にしてみたり、工夫を凝らした階段の例です。
いままでの内容をテスト形式でおさらいします。
最近古いボロい物件をよく見て回っていますが、どの物件も、例外なく階段が急です。居住空間を広く取ろうとした結果でしょうが、それは、当時住んでいた人の生活の質を、必ずしも高めてはいなかったでしょう。部屋は広くなるかもしれませんが、日常の上り下りが大変ですし、滑り落ちてケガをしそうです。
「階段は上り下りするだけの装置ではない」…この本を読むと、階段が、豊かな居住空間を作り出すための重要なパーツだということがよくわかります。階段とは勾配を急に、小さく縮めて、家の片隅に追いやれば良い、というものではないのです。
中古のオンボロ物件をみたとき、リフォームの間取りを考えてみることがあります。階段のことも考えます。今までは、急な階段を少しゆるくしたいな、という程度でしたが、少し考え方が変わりそうです。階段をどこにどう設置すれば、「豊かな空間」を作り出すことができるのか? 私が買うのはきっと狭小物件ですが、それでも「1坪に納まった」「豊かな空間」を、ぜひ目指してみたいと思います。
この本はリフォームのための本ではなくて、住宅の階段の教科書的な本です。かといって堅苦しいものではなく、非常にわかりやすく、正直とても面白いです。階段って楽しいです。
住宅への理解を深める上で、新築の家を建てる方、リフォームされる方、両方にお勧めしたい本です。階段を見る目が変わります。ちょっと高いですけどね。



